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ルートゥス暦875年
つまり、神ルートゥス・トーチが世界を創造してから875年目のこと。
『言葉は全て 言葉は魂 言葉は肉体 言葉が始まり(神言全書第一章より)』
これがルートゥス教第一の教え。
神言全書によれば、ルートゥスは言葉を唱え、最初に世界を創った。
2日目太陽と月を作り、3日目に水…そして、50日目の一番最後に男と女の人間を創った。
2人の人間は神に忠実だった。神は世界を創るのに疲れていた。
だから、ルートゥスは人間に言葉を平等に神の言葉を貸し与えた。
創るものはなにもない。あとは、繁栄させるだけ。
人間は言葉を使ってものを創ることはできない。
だが、言葉を手段として使うことができるようになった。
…
そうして、今日まで人間が繁栄していることは神ルートゥスのおかげであり、
人々は神ルートゥスを敬い、ルートゥス教を作った。
生存している人々はほぼ全員がルートゥス教だと言っても過言ではない。
南部 アヴェルスト王国
「早く、仕上げて頂戴。今日はルートゥス様の51日目の安息日。
お祈りの時間に間に合わないわ。」
「はい、姫様。」
4人の召使に囲まれているのは、この王国の姫であるパニッシュ・ローラン。
パニッシュは鏡の中の自分の顔を眺めた。
前髪は後ろへあげられ、二人係で眉毛、まつげ、目元…と何から何まで化粧されている自分がいる。
大人しく座っている今の状態など、2ヶ月前に想像できただろうか。
2ヶ月前、パニッシュは大人年15歳を向かえた。
大人年になるということは、公の場に顔を出すことだ。
それには化粧をする。
今まで第三者に顔をいじられることなど思いもよらなかったパニッシュの暴れ様はすさまじかった。
「ちょっとやめてよ!くすぐったいじゃない!!」
「そんなのぬりたくない!!」
「もう、触らないでっ!!!」
もともと自由気ままなに育ったためか、お嬢様らしくできない性分なのだ。
だが、今では姫の気品がわずかながらもついてきているようだ。
母親譲りの金の髪は、まっすぐ腰の辺りまで伸び、姫という称号に相応しかった。
「ミルア。」
「なんですか?姫様。」
「ルートゥス様は、私の言葉をお聞きになって下さっているかしら」
「はい。もちろんですとも。」
「私、ルートゥス様の言葉の信頼は誰にも負けないわ。」
彼女の負けん気のかわいらしさに、
女性達の高らかな笑い声がその場にひろがった。
ルートゥス教で最も大切なことは神が貸し与えた言葉を信じること。
言葉を疑うことはもちろんのこと、
言葉を自分の意味で解釈し、詩や本を作ること、
さらには特権階級や牧師、商業を除いた一般の民には言葉を書くことすら許されないことなのだ。
コンコン