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「パニッシュ様…。やはり…。」
そっと目を開けると、メジャーが息を切らして立っていた。
「メジャー…。
ごめんなさい、でも私いかなきゃ、ネシリア王国に行って、助けを求めなきゃ」
「…」
「私、変換者が憎い。
どうしてルートゥス様の言葉を自分のものだとして、
言葉を使って人を殺して行くのよ…!!
許せないの…
そんな奴らに、国を…国を渡せない…。」
この言葉は、おそらく誰もが思っていることだった。
変換者とは、ルートゥス教の教えにそむくもの達。
もちろん、メジャーも思っている。
だが、彼には正直に自分の気持ちに従えるほど、自由なものではなかった。
それを、彼はパニッシュにわかってもらいたかった。
「私は…あなたがこうするだろうと思っていました。
そして、私はあなたに希望も託している。
つまらぬ使命感で、この国を脱け出せない私をお許し下さいっ」
軍で鍛えられた、礼。
腰から直角に曲げられた、その姿にパニッシュは胸が熱くなる思いがした。
昼間のメジャーはてっきり、父ガベルのいいなりになっているのかと思っていたからだ。
しかし、メジャーは違った。
やはり、いつものメジャーだった。
「ネシリア王国まで3、4日の旅となるでしょう。
途中で恐らく村、町があると思いますが、食料を作らせました。」
あ。
パニッシュはすっかり忘れていた。
そうなのだ。
ただ、冒険に出れば自動的に食事がでてくるわけではない。
「ありがとう。」
と、その時、城の門が閉門される音が聞こえてきた。
「!!」
想定外の出来事だった。城下町を見まわっていた兵が帰ってきたのだ。
パニッシュは馬にのった。
「メジャー….もういかないと…。」
「はい。」
「もし、私が帰ってこないようだったら、墓石に名前を刻んでください。
名がこの世になければ、ルートゥス様が私を導いてくれないわ」
ルートゥス教では、人は死後、ルートゥストーチに導かれ、この世に刻まれた名に魂が宿り、永遠に生きつづけるのだとされている。
「はい。」
メジャーの返事は小さかった。
「この短剣を持っていってください!!」
決して新しいとはいえないが、さびのない丁寧に手入れをされた、短剣だった。
まじまじと、パニッシュが眺めているとあるものを見つけた。
手で持つ場所の裏側?に『Syzaria Major』と彫ってあったのだ。
名前を彫るというのは、自分の命をそれに分け与えたのと同然。
「こ、こんなもの受け取れません」
慌てて、パニッシュは短剣をメジャーに返そうとした。
メジャーは首を横に降った。
「その短剣があなたの命を守ります。どうか…」
メジャーはパニッシュの短剣を持った行き場のない手を取り、
そして、その甲にキスを落とした。
「これは、忠義です。」
メジャーは下を向いたままいった。
「…」
パニッシュもメジャーを見ていなかった。
「どうか、無事に帰ってきてください。
私は、あなたの名のために、この職務についたわけではありません。
あなたの帰りを待っています。」