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「シン、森の中は木の実が豊富だが、動物が少ない。
そろそろ町へ出たいものだな」
ガリッ
木の実をかじるのは、シンの唯一の仲間、いや、旅をする同志といったほうが正しい。
「じゃぁ、リチャードだけ、町へ入ればいいじゃないか。」
シンは、食べるのをやめ、木の実を炎の中にいれた。
そして、ごろんと木の丸太を枕にして横になった。
「俺が簡単に町に入れると思うか?」
「俺らが出会ったときは町の中だったと思うが?」
「あそこは広かった。
どうせ、このあたりにあるのは村に入ればすぐに追い出されるさ」
ポツポツ
彼らのいるところは、木が生い茂っていて届かないようだが、
外では雨が降り出したらしい。
「それに、俺にはコレがあるしな。」
そういって、シンは自分の頬を触った。
頬には大きな傷跡のような×印が描かれていた。
リチャードはしっていた。
あの痕があるだけで、人々から忌み嫌われることを。
「…それがわかるほど、一般人が賢いとは思わないさ。
それに今まで入ってきた町で一度でも傷跡っていってきた嘘がばれたことがあるか?」
彼なりの不器用な慰め方。
普段、リチャードは慰めたりなどはしない。
むしろ、他のものとかわりないように見てくれている。
だから、あえてそれを口にするというのは、言ったことをわびているという気持ちがあるのだ。
そんなリチャードに対して、シンは嬉しかった。
「はいはい。明日は、町探しな…。」
感謝はしているものの、適当な返事。
リチャードもそれ以上のことはなにもいわなかった。
いつものことだった。
いつもこうして、
リチャードもシンもお互い適当に話しをするが、
どこか信頼するところもあって、
また次の日旅をする。
お互いそれぞれに目標があり、両方とも旅をしなければ手に入らない。
あくまでも、目標が手に入るまでの仲間。
手に入りにくいので、ついゆったりとした時間が日常になってしまうのは仕方がない。
「もう寝るぞ。」
リチャードが横になった。
「おい、リチャード」
「うん?」
「寝るときぐらい、レンズ外さないのか?」
シンは完全にリチャードをからかっている。
レンズというのは、リチャードの右目にのみつけているメガネのことだ。
「いいんだよっ、今まで気にしてなかったんだから、これからも気に…」
突然、リチャードが言葉をやめた。
見ると、シンが口に人差し指を当て、静かにと伝えている。
「?」
「今、馬の鳴き声がしなかったか?」
耳を澄ましても雨の音しか聞こえない。
「雨の音と間違えたんじゃ…」
「ヒヒ−ン!!」