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「彼女は、仲間とはぐれたんだろう。」

リチャードはシンの言葉に怪訝そうな顔をしてみせた。

「まぁ、本当にただ仲間とはぐれただけならいいんだが、

彼女が所持していた宝石からみて、どこかの王族には違いない。」

 

王族…。

 

シンの中で、今まで旅の途中に出会ってきた王族の顔が思い出される。

どれをとってもいい思いでなど一つもなかった。

 

「家出だったりして…」

リチャードが冗談じみていって笑っていたが、

シンは作り笑いで笑っていた。

 

「見られたかどうかは知らないが、

おまえが変換者であることは黙っていた方がいい」

 

「あぁ、そうだな…。特に王族は…。」

 

シンはそのあといわなかった。

いまさら、自分で自分の首をしめることに苦しみはなかった。

 

わかっていることをいちいちいう必要もないだろう。

 

そう思ってあえて口にしなかった。

 

 

彼女の姿が見えた。

 

彼女はリチャードのもっていた上着に着替えて、泥ももうついていない。

自分らと同じくらいだと思っていたシンは、彼女を見て幼いと感じた。

綺麗な金の髪は、毛先は切りそろえられていなかったが、そんなショートがよりいっそうかわいらしさな雰囲気をだしていた。

だが、今朝見た彼女の涙は、確かに『彼女』とかぶる何かがあった。

幼さと大人の間…。

大人年になったあたりぐらいなのだろうか?

 

ふと、そんなことを考えながらシンは雨水を床へおいた。

 

 

大人年にでもなれば、世界のこともわかってくる。

王族の子は王族の子。

 

 

リチャードは気分はどうか尋ねていた。

 

 

やっぱりさっきいわなくて正解だった、とシンは思った。

いえば、心のどこかでリチャードと比べていた惨めな自分がいるような気がした。

 

特に王族は、変換者を憎んでいる、と。

 

 

 

「え?」

 

リチャードらしくない気の抜けた声にシンは我に返った。

 

 

「どうした?」

 

 

リチャードは明らかに困った表情をして、レンズをかけなおしている。

「?」

 

 

「私…」

 

「…?」

「私、自分が誰なのかわからないんです。」

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