18
「彼女は、仲間とはぐれたんだろう。」
リチャードはシンの言葉に怪訝そうな顔をしてみせた。
「まぁ、本当にただ仲間とはぐれただけならいいんだが、
彼女が所持していた宝石からみて、どこかの王族には違いない。」
王族…。
シンの中で、今まで旅の途中に出会ってきた王族の顔が思い出される。
どれをとってもいい思いでなど一つもなかった。
「家出だったりして…」
リチャードが冗談じみていって笑っていたが、
シンは作り笑いで笑っていた。
「見られたかどうかは知らないが、
おまえが変換者であることは黙っていた方がいい」
「あぁ、そうだな…。特に王族は…。」
シンはそのあといわなかった。
いまさら、自分で自分の首をしめることに苦しみはなかった。
わかっていることをいちいちいう必要もないだろう。
そう思ってあえて口にしなかった。
彼女の姿が見えた。
彼女はリチャードのもっていた上着に着替えて、泥ももうついていない。
自分らと同じくらいだと思っていたシンは、彼女を見て幼いと感じた。
綺麗な金の髪は、毛先は切りそろえられていなかったが、そんなショートがよりいっそうかわいらしさな雰囲気をだしていた。
だが、今朝見た彼女の涙は、確かに『彼女』とかぶる何かがあった。
幼さと大人の間…。
大人年になったあたりぐらいなのだろうか?
ふと、そんなことを考えながらシンは雨水を床へおいた。
大人年にでもなれば、世界のこともわかってくる。
王族の子は王族の子。
リチャードは気分はどうか尋ねていた。
やっぱりさっきいわなくて正解だった、とシンは思った。
いえば、心のどこかでリチャードと比べていた惨めな自分がいるような気がした。
特に王族は、変換者を憎んでいる、と。
「え?」
リチャードらしくない気の抜けた声にシンは我に返った。
「どうした?」
リチャードは明らかに困った表情をして、レンズをかけなおしている。
「?」
「私…」
「…?」
「私、自分が誰なのかわからないんです。」