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「私、自分が誰なのかわからないんです」

 

 

記憶がないってわけか、とシンが目でリチャードにメッセージを送った。

リチャードとはいうと、やっかいだな、と顔をしかめていた。

 

緑色の髪をかきあげ、長い前髪を顔の右のところで結びなおす。

 

リチャードは自分以外の揉め事が嫌いだった。

というより、自分の利にならないことにはかかわらないようにしている。

無関係なものが複雑な渦の中へ入りこんでどうなる?

双方にダメージがあるだけだ。

 

 

あきらかに3人の間に微妙な雰囲気が流れているのをシンは居たたまれなくなった。

リチャードが嫌がっていることはシンは気がついていたのもあるが、

彼女も不安そうな顔をしていたからだ。

 

「と、とりあえず街に行こう。今は早く出発した方がいい」

 

 

気乗りしていない2人を促し、3人は森をでた。

 

 

移動手段は歩きのはずだったが、昨夜の盗賊から馬と荷台を頂戴したおかげで、ずいぶんと楽になった。

 

 

「旅にはつれていかないからな。」

 

リチャードが釘をさすかのように、シンに伝えた。

 

シンは彼女の方を振り向いた。

彼女は荷台に荷物を運んでいる二人とはずいぶんと離れた石に座っている。

 

「俺は一言も…」

「いや、絶対お前は旅につれて、彼女を助けようとする。

街へ行けば、必ず面倒を見てくれる奴はいるさ。」

 

ガタン

 

大きく荷台が音をたてた。

 

 

 

「おまえとは違う。」

 

 

 

「…あぁ。」

 

 

 

荷台作りが終わった。

 

 

 

ゴトゴト

 

 

森をでると、案外すぐに街の姿が見えた。

といっても、簡単に行ける距離ではなかったが。

 

馬の運転はリチャード。

 

 

シンは彼女の目の前に座っていた。

 

 

記憶がない彼女を、街へおきざりにしてよいのだろうか。

シンにとって、彼女を特別に旅へつれていきたいわけではない。

心配なのだ。

自分が味わった孤独、それをもうすぐ感じ様としている彼女を目の前にして。

 

だが、リチャードのいうように、彼女は自分とは違う。

 

シンはもう一度彼女を見つめた。

 

今はフードで顔を隠して、その表情は見えない。

すると、首元でキラリと何かが光った。

 



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