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「それは、ネックレス?」

 

彼女はまさか、話しかけられるとは思っていなかったらしく、

目を大きくしてシンを見た。

 

そのあとようやく、このことか、と恥ずかしそうにシンから目をそらしてうなずいた。

上着からネックレスを表へ引っ張り出してみせる。

 

 

「君はルートゥス教だったんだね」

 

ネックレスと聞いてリチャードが口をはさんだ。

 

リチャードのその言葉は彼女、というよりもシンに向けられた言葉のように聞こえた。

シンだってそのことは十分わかっているし、異論もない。

 

 

しかし、シンは違うことで疑問に思っていた。

 

 

これは宝石なのか…?

 

 

彼女の首にかけられている鎖の先には、光沢も何もない石のようなものだった。

 

 

ルートゥス教では、宝石が最も価値が高く見られる。

だが、神言全書には宝石についてなにもかかれていない。

というのも、宝石の価値観は唯一人間が生み出したものなのだ。

 

その昔、ルートゥスに差し上げものをする時、宝石をおいたものがいた。

当時、宝石はただのアクセサリーにすぎなかったので、その発想は斬新だったそうだ。

太陽の光を存分に含み、内側から生命の息吹を色に染めながら放射する。

しかし、それは硬い殻によって、閉じ込められ美しい結晶の塊へとなる。

 

人は、これこそがふさわしい差し上げだと考えた。

より素晴らしい宝石を…。

 

 

そうして、宝石が流通するようになっていった。

宝石はあらゆる場所からとれた。

地面を掘ってでてくるものもあるし、山を掘ってでてくるのもある。

 

 

アクセサリーとしてつけられていた宝石も

現在では、神に差し上げの気持ちを忘れていないことを表す一つの道具にすぎなかった。

 

…こういう宝石もあるのだろう。

リチャードに聞こうと思ったが、またきにしているのか?と後で怒鳴られそうだったのでやめた。

 

 

ぱかぱか

 

 

まてよ。

 

シンは自分の記憶の糸をたどった。

 

昔リチャードに…。

 

“くっそ。これじゃ売り物にならねぇよ。”

いつもよりも熱くなるところをみるとどうやら、宝石についてリチャードはおこっているようだった。

“どうした?”

“みろよ”

リチャードが渡してくれたのはなんの変哲もない宝石。

“名前を当てろとかそういうことか?”

“おまえがそんなに宝石に精通しているとは知らなかったな”

ハハハとリチャードは笑った。

“宝石の裏側だ。”

 

“文字だ。エミール・タブ”

“自分で彫ったのか、他人からもらったのかわからないが、

困るんだよなー…。こんなもの誰も買わない。”

 

人はしばしば、自分の名を刻むことがある。

死後のためであるは、神言全書にかいてあること。

だが、それでけではない。

自分の名前を刻むのは、その刻んだものに自分の魂を与えることだと、

シンは幼い頃聞いたことがあった。

 

 

そうか。宝石に名前を刻むこともあるのか。

 

 

宝石に関してのリチャードの愚痴は長い。

それを聞きながらシンは新たに学んだな、と考えていた。

 

 

 

「あのさ、それ、ちょっと見せて」

 

彼女は一瞬戸惑った風だったが、宝石をシンにわたした。

 

シンはすぐさま、宝石の裏を確認する。

 

やっぱり。

 

シンの予想通り、そこには文字が刻まれていた。恐らく名前だろう。

 

 

ええっと…。

 

 

 

「止まれ!!!」

 

 

 

ガタン、と大きく荷台が揺れた。



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