21
ガタン、と荷台が大きく揺れて、シンと彼女はバランスを崩した。
起きあがった先には、馬に乗った2人の男。
腰には剣、銀の甲冑をきていて、明らかにどこかの国の兵だということがわかった。
どこの国なのかは、わからない。
「なにかようですか?」
リチャードが尋ねた。その声は不機嫌そうである。
「旅の途中、失礼。
このあたりで、女性に出会わなかったか?」
シンとリチャードの頭にはすぐに彼女のことが思い浮かんだ。
「それは、いい時に私達にききましたね。
昨夜、一人の女性を拾ったんですよ」
リチャードの口元には笑みがうっすら浮かんでいた。
シンもそれなりに、彼女の引渡し先がわかったので安心だった。
「それは本当か???」
2人の兵はずいぶんと慌てているようで、馬をもう一歩こちらへよせた。
兵が兜を脱ごうとしたとき、シンは我が目を疑った。
あの紋章は…!!
彼らの手袋には、六角の中に十字の印と赤いバラ。
忘れもしない。
ウェルヴェスの戦いに参加したあのアヴェルスト王国を。
王国の兵が探す女性。
そんなもの、王族の誰かしかいない。
リチャードの話によれば彼女も王族。
まさか、彼女は…!!
シンは彼女を凝視した。
「そちらの彼女です。」
「…スミマセンが、フードをはずしてもらえますか?」
彼女は、黙ったまま、そっとフードをとり、兵の方を向いた。
「…」
歓喜で飛びつくだろうか、と予想していたリチャードにとって
彼らの反応は意外なものだった。
「どうかしました?」
「いえ…。我々がさがしていたのは、髪が長い女性であるので。」
彼女の髪はショート。
兵は困惑している。
「…」
「…」
「…」
「スミマセンが…。」
全員が彼女の方に注目した。
「私はあなた達のこと、知りません」
その言葉にシンは不自然さを感じ取った。