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「ふぅ」
パニッシュは安堵した。
変換者と一緒にいるだけ、気分が悪い。
私の目的はただ一つ、早くネシリア王国へいくことだ。
パニッシュは記憶を忘れてなんかいなかった。
結局名前は知られてしまったものの、名前、一人でやってきた理由など詳しいことを変換者に話したくないがために、わざと装っていたのだ。
さっきは本当に危なかった。
メジャーの言葉から、まさか、こんなに早く父の手が回るとは正直考えていなかった。
幸いにも大人年になったばかりだったので、
兵たちにもあまり顔を知られてはいなかったことが不幸中の幸いだった。
アヴェルスト王国では、権力は王と予言者にある。
兵士達は、隊長を通じて命令が下されるので、
直に城に出入りして、王と謁見することはほとんどない。
しかも、盗賊に襲われた時に髪を切られたおかげで、
兵たちは人違いだと思いこんだ。
それにしても変換者に助けられるなんて最悪…。
ルートゥス様、あなたを侮辱する変換者との慣れあいをお許し下さい。
そう。
変換者とは、人間から忌み嫌われる存在。
ただ、昔は変換者の役割は違っていた。
変換者は神の安息日に産まれた子が、地上における神の役割として
教会で“ユリの変換”が行われ、変換者となっていた。
だが、時代はそう上手くは続かない。
一時、変換者たちの『シーザの闇』と呼ばれる時代が隆盛したが、
信仰者である民の人口と宝石の所有者による貴族の増加によって、変換者は激減した。
地位が逆転した人間はに残った感情は『シーザの闇』に対する憎しみ。
変換者に残された道は迫害の道。
彼らは、国を追い出され、人間から憎まれた。
それがいつのまにか当たり前となってしまい、なによりも文字を残さない社会だから、その過程を知る人は少ない。
パニッシュもそのうちの一人だった。
ただ、変換者とはルートゥスに対して勝手に言葉を使う憎いものとしか認識されていない。
だが、今のパニッシュには一つの疑問がやはり残っていた。
どうして、あの変換者は私のことを助けたのかしら…。
もしかしたら、あの変換者はアヴェルスト王国のことも…。
パニッシュは思いきり頭を横にふった。
ううん。
変換者は私の国を滅ぼそうとしている。
はやくネシリア王国へ…。
でも…ここはどこなの?
初めて街にきたお姫様は、溢れている人々の雑踏の中、たたずんでいた。